この記事では、中小企業庁が2026年度創設に向けて検討を進めている新成長支援策「10億宣言」の概要、背景、対象企業、直面する課題(6つの壁)、具体的な支援スキーム、注意点について詳しく解説します。
本制度の最も重要な結論は、
「10億宣言」は売上高1億〜10億円未満の中小企業約60万社を対象に、メインバンク(地域金融機関)の伴走支援を前提として、投資支援(補助金)・金融支援(政策金融)・ソフト支援の3つの集中支援パッケージを提供する画期的な成長支援スキームである
という点です。
単なる規模拡大ではなく、労働供給制約社会に対応した「付加価値労働生産性の向上(5年で15%向上)」と「稼ぐ力の強化」を目指す取り組みです。
10億宣言とは
10億宣言は、売上高1億〜10億円未満の成長志向企業が地域金融機関の伴走のもと、売上10億円突破や高収益化を目指してビジョンを公表し、国の集中的な支援を受ける新制度です。
「10億宣言」とは、売上高1億円から10億円未満の成長志向を持つ中小企業を対象に、国が2026年度の創設に向けて検討を進めている新たな支援スキームです。
先行して実施されている「100億宣言」に続き、より多くの中小企業を成長軌道に乗せ、地域経済の奥深くまで成長を浸透させることを目的としています。
この制度では、経営者がメインバンクなど地域金融機関の伴走支援を前提に、売上高10億円の突破や高収益化を目指すビジョンを宣言し、公表します。
本気で自己変革に挑む企業に対して、政府は設備投資などの投資支援、新たな政策金融による金融支援、人材確保などのソフト支援をパッケージとして集中的に提供し、「稼ぐ力」の強化を後押しする仕組みとなっています。
はじめに:労働供給制約社会における「稼ぐ力」の強化
深刻な人口減少社会(労働供給制約社会)において、中小企業には単なる人員増ではなく、AI導入や高付加価値化による「付加価値労働生産性の向上」が不可欠となっています。
2026年5月20日、中小企業庁が新たに「10億宣言」というスキームを打ち出しました。
(出典:経済産業省「労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略(案)に伴う政策の見直しについて」)
現在、日本の中小企業を取り巻く環境は、単なる人手不足を超えた「労働供給制約社会(=働く人そのものが減り続ける社会)」へと完全に突入しました。
- 求人を出しても人が集まらない
- 採用コストや人件費が高騰する
- ベテランの引退によって技術承継が進まない
といった構造的課題のなかで、従来の「人数を増やして売上を増やす」という労働集約型(人海戦術型)の経営モデルは限界を迎えています。
こうした背景から、政府は中小企業の「数」を維持する政策から、少人数でも高い利益を出せる「質」を重視した「強い中小企業」づくりへと舵を切りだしています。
国が定義する「稼ぐ力」の核心は、付加価値労働生産性(労働投入量に対する付加価値額の割合)の向上です。
これは、労働投入量(人員や労働時間)を最適化しつつ、企業が生み出す付加価値額(粗利益など)を増加させることで、社員一人当たりの生産性を高めることを意味します。
| アプローチ | 具体的な施策 | 得られる効果 |
|---|---|---|
| 付加価値額の増加 | 適切な価格転嫁の確保、新製品・新サービスの開発、ブランド化 | 単価アップ・粗利益率向上 |
| 労働投入量の最適化 | AIや自動化ロボットの導入(AX:AIデジタフトランスフォーメーション・省力化投資) | 少人数での業務運用・人件費効率化 |
中小企業庁は各種政策を総動員し、中小企業の付加価値労働生産性の成長率目標を「5年で15%向上」と定め、2040年の名目GDP1000兆円への貢献を目指す方針を掲げています。
「10億宣言」の概要と対象となる中小企業
10億宣言の対象は直近売上1億〜10億円未満の中小企業であり、全国約60万社を巻き込む日本経済の底上げ施策です。
このような労働供給制約社会を生き抜く実行装置として創設が検討されているのが、中小企業庁の新スキーム「10億宣言」です。
10億宣言とは、直近の売上高が1億円から10億円未満の成長志向を持つ中小企業を対象に、経営者が「売上高10億円規模への成長、あるいは高収益企業への転換を本気で目指す」という強い意志とビジョンを公表(宣言)する仕組みです。
全国「約60万社」の地域企業を成長軌道に乗せるメカニズム
先行して実施されている「100億宣言」と今回の「10億宣言」の位置づけの違いは以下の通りです。
| 支援制度 | ターゲット層(年間売上高) | 対象企業数(全国) | 主な目的 |
|---|---|---|---|
| 100億宣言 | 10億円 〜 100億円未満 | 約9.1万社 | 中堅企業候補としての「成長加速」 |
| 10億宣言 | 1億円 〜 10億円未満 | 約60万社 | 地域経済の底上げと成長の裾野拡大 |
一部のトップスター企業だけを支援するのではなく、地域経済の奥深くまで成長を浸透させ、日本経済の土台を総底上げするための裾野拡大メカニズムの構築を目的としています。
10億企業を目指す上での「壁」と求められる自己変革
10億円突破の壁を越えるには、社長個人の「勘と度胸」による属人経営から、組織体制やAI・DX基盤を備えた「総合力経営」への脱却が必要です。
売上高1億円から10億円への成長の階段を登るプロセスでは、中小企業特有の多くの「壁(課題)」に直面し、成長投資に踏み切れる経営基盤が整っていないケースが少なくありません。
政府公表資料でも、この層が抱える生々しい課題例が以下のように整理されています。
10億企業未満の層が直面する6つの課題(壁)
- 経営面: 経営者自身の経営経験が乏しい、あるいは「家族経営」の状態のままシステムや組織の「仕組み」がない。
- 組織面: 社長がプレイングマネージャーとして全てを切り盛りしており、機能分担の仕組みができていない。防衛的賃上げに追われ人材を維持・確保できず、経営を任せられる「番頭・右腕」がいない。
- 販路面: 大手や下請け構造の中で価格交渉力が弱く、自社製品・サービスのブランド化や差別化がされていない。
- システム面: IT・DX(デジタルトランスフォーメーション)・AIが必要であると分かっていても、自社へ実装できない。
- 資金面: 資金調達力が脆弱であり、日々の返済に追われ、将来のための大幅な投資ができず「設備更新がやっと」の状態である。
- 事業承継面: 後継者不足や事業継続に向けた体制構築の遅れ。(出典:経済産業省「労働供給制約社会における中堅・中小企業の「稼ぐ力」強化戦略(案)に伴う政策の見直しについて」)
「勘と度胸」から「組織の総合力」への転換
これらの壁を越えて売上10億円・高収益化を達成するためには、経営者自身が「変化」を受け入れる自己変革が不可欠です。
具体的には、「勘と度胸」に頼る属人経営から戦略的経営への転換、社長一極集中から企業組織としての総合力を発揮できる体制(機能分担の仕組み)への移行が求められます。
さらに、下請構造からの脱却、価格交渉力の強化、ブランド化・差別化を進めることが「稼ぐ力」を作る上で実質必須となります。
10億宣言の具体的なスキームと「地域金融機関の伴走支援」
10億宣言は企業自身の5大項目の公表と、メインバンク(地域金融機関)によるプロパー融資を含む継続的な伴走支援がセットになっています。
経営者は、自社の強みを活かして経営の質を高めるためのビジョンを「宣言」し、その内容を外部へ公表します。
10億宣言で公表が想定される5大項目
- 経営者のビジョン
- 事業価値の磨き上げ
- 成長アセット(経営基盤)の構築
- 地域経済への貢献
- 金融機関の伴走支援方針
メインバンク(地域金融機関)のコミットが必須である理由
10億宣言の最大の特徴は、メインバンクである地域金融機関(地方銀行・信用金庫・信用組合等)に対して「本気の伴走支援方針」の表明を求める点にあります。
売上10億円未満の層は、100億企業と比べて経営者の経験不足や財務・人材面での課題が多いため、金融機関による規律付け(デッド・ガバナンス)が極めて有効な層であると位置づけられています。
そのため、一時的な資金繰り支援に留まらず、厳しい時期も含めて二人三脚で成長を実現するメインバンクが伴走し、持続的な成長を可能とする「真水の成長資金(プロパー融資)」を十分調達できる経営基盤の構築を目指します。
宣言企業に用意される3つの「集中支援パッケージ」
10億宣言企業には、政府から「投資(補助金)」、「金融(政策金融)」、「ソフト(経営人材)」の3分野の集中支援が提供されます。
10億宣言を行い、メインバンクのコミットを得た企業に対しては、政府から以下の3つの施策が集中的に投下される方向性が示されています。
| 支援パッケージ | 主な支援内容・施策 | 目的・活用イメージ |
|---|---|---|
|
1. 投資支援 (補助金の効果的活用) |
・新事業進出・ものづくり補助金 ・省力化投資補助金 |
新製品開発、高付加価値化、省人化ロボット・AI導入投資の加速 |
|
2. 金融支援 (政策金融の連動) |
・日本政策金融公庫等による新たな政策金融 ・リスクマネー供給 |
M&A、大規模IT投資、人材投資等の呼び水となる資金調達 |
|
3. ソフト支援 (経営基盤・人材強化) |
・ハンズオン型経営指導 ・「番頭・右腕」幹部人材の確保支援 ・人材プラットフォーム構築 |
経営管理能力の高度化、組織基盤の強化、幹部人材の採用 |
1. 投資支援(補助金の効果的活用)
単発の「機械の買い替え」で補助金を使うのではなく、10億宣言のストーリーと連動させることで、採択の可能性を最大化させます。
また、10億宣言企業には「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の補助上限を9,000万円から1億円へ引き上げる方針もあると予測されています。
2. 金融支援(新たな政策金融の連動)
民間金融機関の通常の融資枠を超えるような大規模な成長投資が必要な局面において、呼び水となる政策金融が連動します。
3. ソフト支援(経営基盤・人材の強化)
企業の最大のボトルネックとなりやすい「番頭・右腕」などの幹部人材の確保支援や経営基盤構築サポートが行われます。
10億宣言を実施する前に注意するポイント
数値目標だけに囚われず、自社の強みの再定義と組織基盤の構築を先行させることが成功のカギです。
中小企業庁が打ち出したこの新支援策は意欲ある経営者にとって巨大な追い風となりますが、「10億円」という数字目標そのものに振り回されて、身の丈に合わない無理な拡大に走るのは禁物です。
- 自社の「強み」の再定義: 財務諸表の数字だけでなく、競合優位性やコアコンピタンスを客観的に見直す。
- 組織基盤の強化: 経営者の属人化や家族経営から脱却し、成長投資に耐えうる管理・組織体制を整える。
- 金融機関との信頼関係構築: 実態を透明化し、伴走支援を依頼できるメインバンクとの関係を構築する。
※なお、売上高1億円未満の小規模事業者に対しても、商工会・商工会議所の支援のもと「成長志向の経営計画(仮称)」を宣言し、マル経融資の優先適用や小規模事業者持続化補助金で優先支援する仕組みが別途検討されています。
まとめ:専門家と共に「10億宣言ストーリー」の構築から始めよう
2026年以降の勝ち残りには、単発の補助金申請ではなく、AI活用や金融機関連携を含めた中長期の成長ロードマップの策定が不可欠です。
中小企業庁が推進する10億宣言は、「現状維持では生き残れない。
しかし、本気で変革に挑む企業には国と金融機関が総力を挙げて投資する」という強力なメッセージです。
2026年以後、日本の中小企業は、人海戦術や属人化から抜け出せずに苦しくなる企業と、AI活用・生産性向上で成長する企業に完全に二極化していきます。
これからの時代に勝ち残りを目指すためには、単発の補助金申請ではなく、数年先を見据えた「全体戦略(活用ロードマップ)」を描くことが極めて重要になります。
船井総合研究所の「補助金サポートPRO」では、豊富な補助金採択実績と経営コンサルティングのノウハウを活かし、10億宣言を見据えた成長戦略立案から補助金・ファイナンス支援までトータルでサポートしています。
ぜひお早めに無料経営相談をご活用ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 「10億宣言」はどのような企業が対象になりますか?
A. 直近の売上高が1億円から10億円未満で、売上高10億円の突破や高収益企業への転換を目指す成長志向の中小企業(全国約60万社)が対象です。売上1億円未満の事業者向けには、別途「成長志向の経営計画(仮称)」などの支援策が検討されています。
Q2. 「100億宣言」と「10億宣言」の違いは何ですか?
A. 100億宣言は売上高10億〜100億円未満の中軽企業候補(全国約9.1万社)の「成長加速」を対象としているのに対し、10億宣言は売上高1億〜10億円未満の中小企業(全国約60万社)を対象とし、地域経済全体の成長の裾野を広げることを目的としています。
Q3. 10億宣言を行うことでどのようなメリット(支援策)がありますか?
A. 「1. 投資支援(新事業進出・ものづくり補助金や省力化投資補助金などの優遇・連動)」「2. 金融支援(日本政策金融公庫等による政策金融・リスクマネー供給)」「3. ソフト支援(経営幹部人材の確保やハンズオン経営基盤構築支援)」の3つの集中支援パッケージを受けられます。
Q4. 10億宣言を行うためにメインバンクの協力は必須ですか?
A. はい、必須となる予定です。10億宣言スキームでは、メインバンク(地方銀行・信用金庫等)による「本気の伴走支援方針」の表明が求められます。単なる資金繰り支援を超えて、プロパー融資や経営改善を二人三脚で推進することが条件となります。
Q5. 10億宣言はいつから始まりますか?
A. 中小企業庁により2026年度からの本格創設・運用に向けて詳細な制度設計が検討されています。最新情報のキャッチアップと早期の準備(経営計画・金融機関との協議)が推奨されます。





